腐川軟禁-待降節を過ごす密やかな25の話-
クリスマスまでの毎日を少し退廃的に過ごす十神と腐川の二十五日間。 ショートストーリーを一日一本公開予定です。
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娯楽室で
十神は気晴らしだ、と言って今日は娯楽室に腐川をいざなった。
十神は手玉で的玉を順々に撞き、ポケットに落としていく。最後に九番目の玉をポケットに入れた。腐川はただ口を開けて見とれている。
「やってみるか」
選択の余地のない聞き方をされて、腐川は頷くしかなかった。慣れない道具を渡され、見よう見まねで玉を撞いてみても、十神のような華麗なブレイクショットは出来ない。想像していたよりもずっとのろのろと手玉は進み、わずかに的玉がばらけただけだった。
「そうしたら、次は一番を狙え。玉が一つも入らなければ交代だ。」
「む、無理ですうぅ……」
「キューの構え方はこう、その指の間で支えろ。」
十神は無遠慮にその手で腐川の指先を矯正する。腐川は台に向かっているので、勢い覆い被さるような姿勢になる。腐川の心臓の音がまた跳ねるように高まった。十神は気付いているのかいないのか、いつもの通り涼しい顔をしている。
「あとは、真っ直ぐにキューを撞くだけだ。メンタル・スポーツだからな。そんな怯えた様子で出来るか、バカめ」
成る程嗜みとして、メンタル・スポーツの最たる物であるビリヤードを選ぶあたり実に十神らしかった。十神は何があろうとも冷静沈着である。ここ数日の監禁生活で、自然と二人のパーソナルエリアは縮まっているのだが十神はそれを意にも介していない様子に見えた。
腐川が十神に手を添えられ、一生懸命にキューを撞き出すと、先刻よりはまともに力が作用したらしく的玉は綺麗な音を立ててぶつかり、ポケットに落ちた。
「出来たではないか」
「は、はい。ありがとうございます!」
「では次。二番を入れるんだ。」
「えっ!?無理……です……」
腐川は一目見て、それが不可能なアングルであることを悟った。他の玉に遮られて、手玉の位置からは二番へ向かうルートが見当たらない。
「何が無理なものか。貸してみろ」
十神は台の壁に手玉を二回ぶつけ、難なく的玉をポケットに入れた。
「すごい!白夜様すごいです!」
腐川は無邪気に拍手をした。
「こんな物はトリックショットのうちにも入らん。」
「え……?」
「そこに手を突け。本来はマナー違反だがな」
腐川の目の前の手玉の脇を示した。言われた通りに手の平をラシャに突いた。それでは軌道が塞がれ手玉を的玉に向かって撞くこともできない。
腐川は不思議そうにすぐ傍にある十神の顔を見ると、見ていろと目で制された。
十神は左手の指を立ててブリッジを高い位置に設定すると、手玉の上から強くキューを叩きつけ、手玉を高くジャンプさせた。玉は腐川の手の甲を飛び越え、目当ての的玉に当たる。玉は別の玉に当たり、魔法のようにポケットに入った。
「では次。肘から先を台の上に置いてみろ」
指示された通りに、腐川は台にもたれ掛かる。十神の撞く玉は、腐川の脇をかすめ次の的玉に真っ直ぐ向かった。
そうして十神の命令により、次は両手を突きまた次は上半身を台に投げ出す。十神は腐川の体を障害物と見なしたまま、トリックショットを次々と決める。まるで腐川の体などそこに無いかのように振る舞うので、ショットによっては十神の前髪が触れそうな距離になる。
「びゃ……びゃくや様……も、もう」
「どうした」
「これ以上は……ドキドキして……」
腐川は顔が真っ赤になって、両手で顔を覆っている。
「ではこれで最後だ。横たわれ。膝を立てて。」
「えええっ!?びゃ、びゃく……」
困った顔で抵抗を示したが、相変わらずのポーカーフェイスは崩れない。腐川は観念してビリヤード台に体を横たえた。
十神が撞いた玉は、腐川の膝の下を通り壁にぶつかって最後の九番の玉を落とした。
涙目で震える腐川の顔をのぞき込み十神はニヤリと笑って言ってのけた。
「メンタル・スポーツだと言ったろう?」
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