腐川軟禁-待降節を過ごす密やかな25の話-
クリスマスまでの毎日を少し退廃的に過ごす十神と腐川の二十五日間。 ショートストーリーを一日一本公開予定です。
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学級会その4 謎解明
「びゃ、びゃ、白夜様……」
いつもの口調で十神に恐る恐る話しかける。多少疲労の色は出ていたが、体に異常はないのを見て取り十神は内心安堵した。
しかし、腐川が歩み寄ろうとすると十神は不快感を露わにした。十神は眉間に皺を寄せながら厳しく言い放った。
「腐川……匂うぞ」
「ひぃっ!ごめんなさい、ごめんなさい白夜様……」
身を縮こまらせて腐川は恐縮する。この様子では、この二日間風呂にも入っていなかったのだろう。十神はおおよそ何が起きたかを確信した。しかし、その核心に先にたどり着いていたのは。
「霧切響子、貴様の手引きで腐川をここに連れてきたのだな?」
「ええ。十神君が寝ている間に彼女の居場所を突き止めて連れ出したのよ。」
「余計なことを……」
十神は舌打ちした。そんなことをせずとも十神一人で核心にたどり着くところだったのだ。
「どういうこと?腐川ちゃんは、今までどこに閉じこめられてたって言うの?……もしかして、それも十神の仕業?」
「貴様は一体何を聞いていたのだ!俺は関係無い!この事件の謎なら今すぐにでも解いてやろう!」
朝日奈の見当違いの突っ込みに、十神は思わず売り言葉に買い言葉で言い返していた。
「も、もういいじゃない?腐川さんが戻ってきたんだし」
苗木の言葉を霧切が遮る。
「そうね。このままじゃ皆納得もしないでしょうから、十神君。まずあなたの考えを聞かせてもらおうかしら。」
「良かろう」
十神は顔を上げた。
「初めに言っておこう。この事件は複数犯によるものだ。」
「根拠は?」
「葉隠を壁に磔にした腐川は……おそらく俺の注意をそらすための囮だ。俺が廊下に出た隙に、書斎の腐川は図書室を通り反対方向へ姿を眩ましたのだ。」
「で、でもあの腐川っちは確かに、間違いなく本人だったべ……どこかに走っていったけど!」
「この場合、囮が本人であり、本人が逃亡するためのトリックだったのだ。古い手だな、腐川。」
十神は腐川の顔を見遣った。腐川は何も答えず俯いている。但し、それを裏付ける符号は十神と腐川の二人の間でしか通用しない。ジェノサイダー翔の鋏を使い、葉隠を磔にした。それについては十神は敢えて供述しない。
「では、書庫にいたというもう一人の腐川さんは?」
「……おそらく、その少し前に腐川と入れ替わっていたのだろう。俺が腐川の小説を読み耽っている間に。俺は腐川にコーヒーを頼んだ。偽の腐川はコーヒーを淹れ、書庫に戻った。」
十神は自身の推理を語った。
「では、その偽の腐川さんは誰かしら?」
「短時間で腐川と服の交換が出来る者。瞬時に髪色から髪型に至るまで腐川に合わせることが出来る者。腐川と示し合わせて入れ替わったのであろう。」
十神はここで、ある特定の人物に向き直った。
「そうだな?舞園さやか!」
「……お気づきでしたか。」
舞園さやかは悪びれず微笑んだ。
「私、何かミスをしましたか?……演技力は悪くなかったでしょう?」
「ああ、俺が読書に気を取られていたとはいえ、大した演技力だったぞ。」
十神は薄く笑って推理を続けた。
「腐川が俺のために書いていた小説は、確かに推理小説だ。だが、それは俺と腐川の二人しか知らない事実だ。それを貴様が何故知っている……?」
「……そうでしたね」
舞園は否定しなかった。先ほどの皆の勝手な証言の中、僅かに綻びがあったことを十神は見逃さなかった。
「ま、舞園さん??なんでそんなことを」
皆不思議そうな顔で舞園を見た。
「女子だけで学級会をした日、腐川さんに悩みを打ち明け開けられたから協力することにしたのです。」
十神はふといやな予感に駆られた。まさか、ジェノサイダー翔のことを腐川が第三者に打ち明けたというのか。
「十神君、いくら腐川さんにつききりで小説を書かせても、ずっと一緒にいるなんてヒドいですよ。高校生の女の子には、口で言えない事情だってあるんです!」
舞園は、言外に腐川のバイオリズムがそのような時に来ていたことを匂わせた。手洗いに立つにも十神に断りを入れるような生活では耐えがたいことも起きるのだと。
「……十神君の部屋の前に腐川さんの小説を置いたのは私です。貴方が部屋に戻る姿を見かけたから。……腐川さんが事前に書き溜めておいたものを預かったんです。」
「後は私が説明するわね。」
霧切がそれを受けて話し始めた。
「私は女子会の後の舞園さんだけが、腐川さんと話す時間があったと考えて、協力者だと判断したわ。……そうでない時は、十神君がべったりだったものね」
十神は何か言い返したそうな苦い顔をしている。無視して霧切は話し続ける。
「そして舞園さんから腐川さんの行方を聞き出したわ。腐川さんが姿を隠したのは、トラッシュルームの地下。見つからないはずね。長い長い梯子で降りた先のゴミ捨て場よ。」
「通りで……」
十神は腐川から漂う匂いに顔をしかめた。
「それじゃ、腐川さんも見つかったし、事件の謎も解けたし、一件落着だね!」
苗木が朗らかな声でその学級会を閉めた。十神の突飛な行動に関しては、風紀委員の石丸が、風紀の乱れがどうの腐川君の人権がどうの騒いでいたが。それまで黙り込んでいた腐川が、唐突に口を開いた。
「あの、こ、これは全部あたしが望んだことなんです。だから、白夜様は、悪くありません。お、お、お騒がせして、ごめんなさい。」
当の本人にそう言われてはそれ以上十神を責める者は無かった。
「それより、さっき十神君が言ったことは本当かしらね?」
霧切がニヤリと笑って言った。
「『あの女が戻るなら何でもする』……そう言ったわね?」
「……ッ!あれは……只の!」
「何かしら?まさか、皆の矛先をかわすための小手先のブラフだなんて言わないわよね?」
「びゃ、びゃ、びゃくやさま……あたしのためにそんなことを……!?」
「そうね……クリスマスパーティに彼女をエスコートでもしてあげるべきじゃないかしら?」
「ああ、それいいね!さあっパーティの準備しよっ!」
「ええい!勝手にしろ!」
十神は自棄になって叫んだ。
「ほ、ホントですか白夜様!」
「寄るな!お前はまず風呂に入れ!!」
裁判にも似た学級会で事なきを得て、十神はやっと心の平安を取り戻した。腐川に問いたださねばならないことは、まだある。
しかし、まずは明日のクリスマスパーティの支度が待っていた。
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