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腐川軟禁-待降節を過ごす密やかな25の話-

クリスマスまでの毎日を少し退廃的に過ごす十神と腐川の二十五日間。 ショートストーリーを一日一本公開予定です。

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誓約

「十神クン……?何してんの?」

 苗木誠が驚いて声を掛けたのは、思いも寄らぬ場所に彼が居たからだ。クラスメートとの朝食会にも出てこない、必要以上の交流を好まない人間が、厨房に居る。最もその朝食会も、クラスの風紀委員発案の会だったが決して義務ではなかった。没交渉になりがちな孤高の男でも、人並みに腹は減るのだろうと苗木は理解した。

「お前には関係ない。お前こそ、何の用だ?」
 早く立ち去れ、と言わんばかりにつっけんどんな答えを返す。さも忙しそうに、手元にあった器具を片付け始める。調理台の上には、カラフルな洋酒の小瓶がが二、三本。ジャムの瓶ほどの広口瓶がひとつ。
「いや、大した用はなくて、ちょっと喉が渇いただけ」
 何気なくのぞき込んだ広口瓶には刻んだ果物だのナッツだのが何種類か見え隠れしていた。十神は大きな手でそれを隠すように持ち、ならばさっさとしろ、と言い捨てた。
「十神クンでも、料理するんだ」
「馬鹿にするな。十神の男たるもの、一通りのことは教育を受けている。」
 苗木は十神がまるで宝石箱のように抱えているその瓶に興味があった。
「それ、何……?」
「待降節になったからな。この時期はいつもこういった物を用意する。我が家の習慣だ。」
 それを聞いてから苗木はしまったと思った。十神一族は、絶望事件が起きて幾ばくもしないうちに滅亡していた。一年前は親族と幸福なクリスマスを送ったであろう男が、独り粛々とその習慣をなぞっている。
「……滑稽か?そうだろうな」
「そんなことないよ!」
 無意識に表情が曇ってしまったことを苗木は恥じた。
「すごく、素敵なことだと思う。」
「そうか。ではもう出ていけ」

 苗木は、ふいに思い付きを口にした。
「そうだ、今年のクリスマスはさ、皆でパーティーをしようよ!食堂にツリー飾ってさ……学園長に許可貰おうよ!」
「……勝手にしろ」
 そう言ってまた後片付けに戻った十神の表情は、苗木の立ち位置からは見えなかった。

 苗木がそそくさと出て行った後、十神は懐中時計を取り出しおもむろに時間を確かめた。もう朝食と呼べる時間は過ぎていて、そろそろブランチであろうという時間。自分だけであれば、適当にパンを一片コーヒーで流し込めば済むのだが、今はそうもいかない。首根っこを掴んで食べさせねば、寝食も忘れて執筆に没頭する愚者が一人居るのだ。十神は忌々しそうに食糧庫からパンの塊を取り出し、パン切り包丁で薄くスライスしたパンに上等のハムを挟んだ。

 十神白夜は、腐川冬子とある契約を交わしていた。
 退屈極まりない雌伏の時を過ごすに当たり、十神は思い付きで腐川に提案をした。
――俺が夢中になるような話を書いてみろ。出来たら褒美をやろう。バックアップは惜しまん。
 それは、権力者特有の退屈しのぎと支配欲による注文だった。昭和初期のようなパトロン感覚で、十神は腐川を子飼いにしようと考えたのだ。
 腐川は米つきバッタのように何度もお辞儀をして、よろしくお願いします、あたし頑張ります、と快諾をした。十神は腐川のクラスメートの矩を越えた好意を感じてはいたが敢えて無視した。それよりも、当代一流の文豪の紡ぎだす新しい物語を独占したい欲が勝った。一途な物書きと傲慢な読書家の契約が、そこに成立した。

 だから十神は今朝も書庫の扉を敲く。どうせまた昼夜逆転するほど書いていたのだろう、と読んでいた。
 バックアップは惜しまん、と約束した通り、十神は腐川の執筆活動が彼女の身体を疲弊させることの無いよう最大限の注意を払っている。十神の用意した無骨な朝食は、腐川の健康維持に多少なりとも貢献しているのだ。

「いつまで眠りこけている、無様だぞ腐川」
――今朝も辛辣な言葉を彼女に投げつける。

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自己紹介:
ダンガンロンパ二次創作をかいています。主に十腐(ジェノ)固定。拍手コメントの返信は、ブログ『ぺね屋絶望ホテル』からいたします。

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