腐川軟禁-待降節を過ごす密やかな25の話-
クリスマスまでの毎日を少し退廃的に過ごす十神と腐川の二十五日間。 ショートストーリーを一日一本公開予定です。
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学級会その3 またの名を学級裁判
十神は真っ直ぐ食堂に向かった。
食堂では、クラス全員が大きな円卓についていた。腐川を除く全員が。皆入り口から入った十神の顔を見た。十神が犯人であるかのように。
十神の意地を掛けた戦いが始まる。
「全員で探したけれど、腐川さんはどこにも見つからなかったよ……」
「そこで、皆が見つけた腐川さんの手掛りを集めてみようと思ったのよ。」
苗木誠と霧切響子が口火を切った。
「まず、最後に腐川さんの姿を見たのは誰かしら?」
最初からまるで尋問である。
「俺だ。腐川は図書室の書庫で小説を書いていた。俺にコーヒーを淹れて書庫に戻った後……姿を消した。」
十神がありのままを答える。この場合、嘘は何の得にもならないと承知していた。
「オレが、腐川っちに捕まってハリツケにされたあの時だべ!?」
葉隠がさらに証言する。
「相違ないわね?十神君」
「待て。葉隠。貴様が見たのは本当に腐川だったのか……?」
「どういう意味だべ?オレが見間違えるわけねーべ?あれは間違いなく腐川っちだったべ!」
「その頃腐川は書庫で小説を書いていたからだ。俺が、この目で確認している。」
十神はまずその矛盾を解きたかった。そこに、腐川行方不明事件における複数犯の可能性を見出していた。
「妙な話ね。腐川さんは葉隠君を襲った。けれど、十神君は図書室に居て、奥の部屋にいる腐川さんを見ている。」
「ハッ俺に言わせれば初歩的なトリックだ。葉隠を襲い、騒ぎを起こし俺を現場に向かわせる。部屋の奥に居たであろう腐川は、その隙に抜け出したのであろう。」
「で?貴方はその初歩的なトリックにまんまとひっかかったわけね?」
「……っ!」
十神は苦い顔をする。
「それは大体予想がついたわ。おそらく、腐川さんが姿を消した謎には、誰か他の人間が関わっている。では、次の質問。」
霧切響子は慣れた口調で言葉をつづけた。
「姿を消す前の腐川さんの様子がおかしかったことは無いかしら?これは皆への質問よ」
「十日ほど前、腐川が保健室で寝込んだことがあった。酷く憔悴していたので、我が看病をしたのだ。」
大神さくらが答える。
「この間の女子会だって、腐川さん先に帰ってしまいましたね。私、お菓子のレシピを持って追いかけたら何だか具合が悪そうで。……十神君の所に戻らないといけない、と言ってました。」
舞園さやかが答える。
「それもこれも、みんな十神のせいじゃないの?」
朝日奈が突如声を荒げた。
「私も夜中に腐川ちゃんの姿を見た時は、何か抱えて図書室に向かう所だったよ。また十神が変な命令したのかもって思った」
「フン、だとすれば間違いなく言えるな。その時点で俺は何も強要していない。」
十神が自信たっぷりに証言をする。夜中に腐川が出歩くことは、十神との監禁生活に反する行動である。つまり、監禁前に腐川が勝手に行動していたことを指していると考えた。
「……その時点で、ということは、……十神クン、何か強要していたことがある、のかな?」
苗木が控えめに聞いた。
「何も無いな。」
十神は撥ね付ける。少なくとも、腐川の監禁は本人との合意の元行っている。詭弁ではあるが、十神は絶対の自信を持っていた。
「で、でも……ずっと図書室に籠っていたよね、二人で。」
不二咲千尋がおずおずと言い出した。
「図書室に本を探しに行きたかったけど、ちょっと……入りづらかったんだ」
「そりゃ、"真っ最中"にお邪魔しちまったらわりーからな!」
桑田が混ぜっ返す。不二咲は真っ赤になって慌てて否定する。
「あ、そういう……そんな感じじゃ……全然なかったんだけどね!」
「そういえば、二人は図書室で何してたの?」
苗木が素朴な疑問を投げかけた。十神は答える。
「……腐川は小説を書いていた。俺のために。」
「やっぱ強制的にやらせてたんじゃん!」
やはり供述を続けると、一方的に十神の立場は悪くなる。十神とて、この機会に腐川を消した者の手掛りを引きずり出したいのだ。理不尽な攻撃をかわしながらも十神は聞き返した。
「では俺も聞こう。この中で腐川が俺のために新作小説を書いていたことを知っている者が居るだろう。俺以外にだ。」
「んなの知らねーっつの!」
「全くですぞ!腐川冬子殿の新作小説があったらここに居るもの皆飛びつくでしょうな!」
「そうですよ、彼女の推理小説なんて知ったら皆読みたがるに決まってます」
「それより何処にあるの?その新作!」
皆口々に勝手なことを言う。十神は仕掛けた罠に獲物が綺麗に掛かったのを見届けた。では、犯人は何のために……?
「新作なら俺の手元にある。只、完結はしない。腐川が戻ってこない以上……な。」
十神はこめかみに指先を当て悲痛な面持ちで言葉を発した。それは、十神白夜にあるまじき弱り切った表情であった。
「十神クン……」
苗木が心配そうに十神を覗き込む。
「俺は、あの女が戻るなら何でもする」
皆一様に静まり返った。空気の流れが変わった。神妙な面持ちは、当然十神のブラフである。
しかし、もう誰も十神を責める者は無かった。
「では、どうしてその言葉を彼女の前で言ってあげないのかしら?」
突然しんみりした空気を読まずに霧切響子が切り込んだ。
「……ここまで言えば解るわね?……腐川さん、入っていいわよ」
突然の霧切響子の言葉に、一同は驚いた。誰より驚いたのは、十神白夜である。
皆食堂の入り口に注目した。
そこに現れた人影は、まさに腐川冬子本人だったのである。
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