腐川軟禁-待降節を過ごす密やかな25の話-
クリスマスまでの毎日を少し退廃的に過ごす十神と腐川の二十五日間。 ショートストーリーを一日一本公開予定です。
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腐川捜索
「頼む、腐川を捜してくれ……!」
十神が意地もプライドもかなぐり捨てた顔で、クラスメートの皆に頼み事をする。それは異常事態だった。
クラスの中でもお気楽な人種である桑田や葉隠すら、事の重大さを察して黙り込む。
「そんなの勝手だよ!!腐川ちゃんのことならずっと一緒にいた十神が一番よく知ってるはずじゃん!」
日頃の十神の腐川に対する扱いを快く思っていなかった朝日奈が猛反発をする。
「学園中、捜した。俺一人では限界だ。……頼む。手を貸してくれ。」
そして、七十八期生全員による学園内の大捜索が行われた。昨日は十神一人で捜していたから、死角もあったかもしれない。しかし、複数階を虱潰しに捜しても腐川の行方は知れない。
「十神クン、ちょっと休んだ方がいいよ……?」
明らかに顔色の悪い十神を見て、苗木誠が声を掛けた。
それもその筈だ。昨晩から碌に休まず食べず学園内を歩き回っている。十神は
「ああ。それでは少しだけ部屋に戻ろう。」
そう言い残して寄宿舎の自室に向かった。
寄宿舎のホールを通り過ぎる時も手分けして捜索に当たる女子の姿をちらほら見かけた。無関係のクラスメートまで巻き込む羽目になった。十神は己の迂闊さから最悪の事態になっていることを痛感した。
自室に戻り、十神は寝台に倒れ込む。うつ伏せのままじっと自問自答を続けた。
(何故腐川は消えたのか)
(他人の手で?自分の意志で?)
(どうやって俺の目の前から消えた?これは大体、見当が付くがしかし……)
(腐川は何処にいるのか……三十六時間以上姿を消すなど。命令違反もいいところだ)
(こんな時にあの小説が気になるなど。俺も相当な人非人というわけか)
(俺は、腐川をどうしたかったのだろう)
思考中に十神は意識が遠くなり、軽く微睡んだ。それはほんの小一時間程度の間。次に十神が薄く目を開けた時部屋の中のわずかな違和感に気が付いた。ドアの隙間に、白い紙片が挟まっている。十神は頭を軽く降って覚醒を促した。
「これは……」
つかつかと扉に歩み寄り紙片を手に取ると、そこに書かれていた文面は。
『お読みください』
達筆だが華奢で神経質そうなその字は。万年筆の青い濃淡のあるその字は。十神のよく知っているものだった。
読めとはどういうことなのか。
十神はドアを開いて廊下に出た。そこで気が付いたのである。ドアの脇にそっと置かれた封筒に。中を見ずとも見当は付いた。それは十神が渇望していた、腐川の推理小説の続きであった。
再び部屋に籠もって中身を確かめる。封筒から出てきた原稿用紙の束は、間違いなく腐川愛用のもので、そこに綴られた物語は、探偵が登場人物を集め推理を披露する直前から始まっていた。
(これは確かに腐川が書いたもの……)
十神は文章の全てに目を通すと、それは確信に変わった。流麗な文体はまぎれもなく腐川冬子のものだった。原稿用紙の綴じ紐すらも今まで腐川が使っていたものと同じ、小さな和紙の紙片を用いたこよりだった。
十神は顔を上げ原稿の束をばさりと机に置くと、立ち上がった。もう憔悴した様子はどこかに消し飛んでしまっていた。
(一つ読めた。この事件は、複数犯だ。)
だがどうやってあぶり出す……?
十神がいくつかの手掛かりの点と点を線で結び始めた時、インターホンが鳴った。扉の前に経っていたのは霧切響子だった。彼女はいつもと同じ冷静な顔で
「十神君?皆食堂に集まっているわ。腐川さんの行方について、これまでの証言を元に話し合いをするのよ。」
霧切の言うことは最もだった。腐川が見つからない以上、皆が持っている情報を引き出して腐川の行方を追うしかない。
こうなることは十神の予想の範疇だった。皆を頼った時点でその箱の蓋は開けられてしまっていたのだ。十神は腐川消失事件においてはむしろ巻き込まれた側であるのに、名探偵に呼びだされる犯人のような心境だった。
あの女の秘密を守り通した上で、無事に彼女を連れ戻せるのか。十神白夜の弁舌に全てが懸かっている。
(やってやるさ)
十神は決意を持って食堂に向かった。
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