腐川軟禁-待降節を過ごす密やかな25の話-
クリスマスまでの毎日を少し退廃的に過ごす十神と腐川の二十五日間。 ショートストーリーを一日一本公開予定です。
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ランドリーにて
大ざっぱな男子などは、溜まった着替えを突っ込んで一気に乾燥までのフルコースのボタンを押し、どこかへ行ってしまう。
流石に女子はそのようなわけにもいかず、洗い物を仕分け、ネットに入れ、放置もせずにランドリー室で雑誌など読んで待つ。干す時も、凝った下着などは丁寧に扱わないと形が崩れてしまう。
「ちょっと、待って腐川さん!」
舞園さやかが驚いて大きな声を出したのも、ランドリー室ではち合わせた腐川冬子が、余りに大胆な洗濯の手順を踏んだからだった。そのプロセスはほぼ男子と同じで、両手いっぱいに抱えた洗濯物を全自動の洗濯機に放り込み、洗剤を突っ込み、申し訳程度のレースのついた下着もブラジャーもお構いなしにスタートボタンを押したのだ。
「あ?な、何よ、あたしのやり方に文句でもあるの!?」
「……下着はネットに入れた方が傷まないですよ?これ、使ってください。」
有無を言わせぬ押しの強い口調だったので腐川は戸惑って、訳の分からないことを口走った。
「そ、そういうことなら、ボタン押す前に先に行ってよ!……あ、か、勘違いしないでよね!?か、か、感謝してないわけじゃないんだから!」
予想もつかないリアクションが返ってきて、今度は舞園が困惑した。
「ええと、お礼を言ってくれているのですね?どういたしまして。」
腐川は洗濯機の扉を開けて、もそもそと下着を選り分け始める。舞園は、普段あまり言葉を交わすことのないクラスメートをまじまじと見つめた。色白の肌に、大きな瞳。鴉の濡れ羽色の例えに似つかわしいロングヘア。少し磨けば相当な美少女になるであろう彼女は、大きな瞳を厚い丸眼鏡に隠し、黒髪をぎっちりと三つ編みにしている。挙動不審な態度も、おそらくは自信の無さの裏返しだ。
面倒見の良い女子にありがちな、級友を思う様飾りたてたい衝動に駆られた。但し、今の彼女には拒絶されるであろうことは見えていて、慌てて心の中でその衝動を打ち消した。
「腐川さんは、普段何をして過ごしているんですか?やっぱり小説?」
「あ、アンタ馬鹿?小説家だもの、小説を書いているに決まっているじゃない。」
「そうですか」と言って舞園はクスッと微笑った。その笑い方は、人付き合いが苦手な腐川も嫌いではなかった。パーソナルエリアを心得たー必要以上に立ち入らない-しかし温かい微笑い方だった。だから、少し自分の打ち明け話もして構わないと思った。
「連載を……持っているのよ。ネットで外の世界への……希望の小説を」
腐川冬子の作品は、今や外の世界に向けた一種のプロパガンダ小説の役割を果たしていた。書き上がったら細い回線のメールである会社に作品を送る。月に一度程のささやかな仕事だが、外の世界に関われる貴重な機会であった。
「今はどんなお話を書いているのですか?」
問われて腐川はドキリとした。仕事の小説は短編小説で、大した時間は取られない。今は。今書いている作品は、ただ一人の大切な人のため。
「……ど、どうだって良いじゃない。アンタに関係ないわ……」
腐川は洗濯機に凭れ目を反らしながらぼそぼそ答えた。彼女には、何もかも見透かされてしまう。
「好きな人のため、ですね?」
「な、何でそんな」
「エスパーですから」
本当か嘘か、確かめる術もないことをしれっと言ってまた微笑った。
「……た、確かに白夜様のために、小説を書いているわよ。白夜様のご気分を紛らわせるために。それが、いけないっていうの?」
「とても素直で、素敵なことだと思います。」
舞園は、歌うように言った。否定は、しなかった。
しかし舞園は、腐川の素直すぎる告白に困惑とある種の羨みを覚える。シェルター内の恋愛事情は基本隠すのが暗黙のルールである。それは、均衡を保つため。
誰もが見えない未来に向かって探り探り生きている。不安を押し隠して平常心を装っている。皆、平穏な明日を迎えるために、昨日と同じ平穏な一日を送る。外界に遮断された、この閉じた世界で。
だから、舞園は抱えた想いを一度胸の奥底にしまい込んだ。交錯する想いは誰かを傷つけると考えたから。
腐川とその相手に限って言えば、他に恋敵になるような物好きは居なかったから、誰にも迷惑は掛けないのだが。二人の急接近は、七十八期生の均衡を崩すことに成りかねない。増して、二人のエキセントリックな半拘束生活は危うすぎると思った。
--歪な関係はいつか破綻しますよ
舞園さやかは、腐川に向けた本音を隠し、困ったように微笑う。今は、一途なクラスメートがいじらしく可愛らしく、それを見守っても良いと、そう思ったのだ。
腐川はと言えば、小説のプロットを思いついたのか、手帳にしきりと細かい文字で単語を書き綴っている。
ランドリーにドラムの回る低い音が二つ。
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