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腐川軟禁-待降節を過ごす密やかな25の話-

クリスマスまでの毎日を少し退廃的に過ごす十神と腐川の二十五日間。 ショートストーリーを一日一本公開予定です。

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聖夜

 重い学級会から二日後。
 七十八期生のクリスマスパーティが開かれることになった。食堂で、男子は大きなツリーやリースで飾り、女子は手分けして料理を用意した。

 十神は腐川をエスコートするという約束を律儀に守り、部屋の前で支度する腐川を待っていた。
「遅いぞ腐川。」
 ドアをノックして急かした。
「は、はい白夜様……ただいま」
 ドアを開けて出てきた腐川は、シンプルな紺色のベルベットのワンピースを着ている。いつもの制服と異なり、しっとりとした女性らしい雰囲気を纏っている。
「フン、馬子にも衣装とはこのことだな。」
「あ……ありがとうございます。文学賞の受賞式に作った服しかなくて。」
「何だ、髪はそのままか。ちょっと待て」
 十神は少しの間向かいの自室に戻ると、スペアのクロスタイを手に戻ってきた。
「本当は、共布のリボンでもあればな」
 そう言いながら普段の二本のお下げ髪を後ろで緩く結んだ。シルクで出来た細いクロスタイは、十分リボンの役目を果たした。
「ありがとうございます……!」
「勘違いするなよ。仮にもこの俺がエスコートするのだぞ。普段通りの格好は許さん。行くぞ」
「は、はい」

 エスコートと言うには十神の態度は尊大に過ぎるし、腐川は十神の後ろを小走りについていく。食堂に入っても依然その調子なので、ある種の効果を期待していた女子達は肩すかしを食ってあきれかえった。
「ま、十神らしいよね……」
「本当にお付き合いしてないっぽいんですよね……」
 コソコソ話してその話題はそれきりになった。

「メリークリスマス!!」
 七十八期生全員のコールでパーティが始まった。皆、それぞれの思いを抱えてしかし今だけは、ささやかなパーティを楽しんだ。いつの日か、もっと多くの人と共にこのようなひとときを過ごしたいと望んだ。

 パーティが終わり、皆で後片付けをした後は解散になった。朝日奈は両腕いっぱいドーナツを抱えて、大神を誘い自室に赴く。石丸は飲みつけないコーラでいい気分になったのか、大和田と桑田を相手に終わらない説教を始めている。不二咲がおろおろ止めに入ろうとしているが聞く耳を持たない。食後のお茶の支度を命じる者。さっさと部屋に引き上げる者。
 そしてばらけ始めた隙に食堂を抜け出す十神と腐川。

 どこに行くかは言葉を交わさなくても分かっていた。
 二人は無言で学園エリアに向かい、二階への階段を上がる。図書室に入り、十神は座れ、と閲覧席を指した。
「さて、お前には聞きたいことが三つある。答えろ」
「……はい」
 今度は腐川が裁判に掛けられる被告人のような顔をしている。先だっての学級会で露わになった事実、それだけでは収まらない二人の間でのみ生きる真実があるのだ。

「一つ目の質問だ。俺の前から姿を消した理由は、……月のものだけが理由では無いな……?」
「……はい……アイツは……月に一度、活発になるんです。丁度、私の……体のサイクルに合わせて。今までは、部屋に閉じこもってやり過ごしていたんです。でも……」
「俺と一緒に居て、危害を加えると思った、そうだな?」
「はい……だから、思わず彼女に助けを求めていました。ただ、アイツことは何も話していません。」
 それは、ほぼ十神の予想通りの答えであった。但し、ジェノサイダー翔は十神に危害を加えたりはしなかったが。十神は腐川の答えに満足した。
「では二つ目だ。この監禁生活、本当はどう思っていた?」
「……毎日が、楽しかったです。白夜様とずっと一緒にいられて、本当に楽しいことばかり。……夢のよう、でした。小説を、書き終わったら終わってしまうのかしら……って」
「では、これで終わりにするか?」
 十神が三つ目の質問をすると、腐川は泣きそうな顔で原稿用紙の束を差し出した。
「こ、これが最後の……エピローグです。きっと、終わった方がいいんです……これ以上ご一緒していたら、私どうかなってしまいます……」
 何ともいじらしいことを言う。どうかなってしまいそうなのは、腐川だけではなかった。この異常なシチュエーションを紡ぎだした十神自身、腐川に指一本触れず過ごすには限界が来ていた。だから十神も今回の契約は一度仕舞にすることにした。
「解った。」
 何の感情の起伏もなく答える十神に、腐川は泣きそうな顔で頷く。

「では、この十神白夜から文豪腐川冬子への、これが最後のメニューだ。」
 十神は、レーズンが盛られた小皿を取り出した。あらかじめ洋酒につけられていたらしく、良い匂いがした。そこにさらにブランデーの小瓶を取り出して、振りかける。
 不思議そうに腐川が眺めていると、十神は懐から取り出したマッチに火をつけ、「明かりを消せ」と腐川に命じた。腐川は慌てて壁のスイッチに走る。
 部屋が暗くなると同時に、洋酒に火が付いた。レーズンは青白い炎を纏い燃えている。
「スナップ・ドラゴン。これをそのまま口にする。ゲームみたいなものだな。」
 言うが早いか、十神は燃え盛るレーズンを一つ摘んで口に放り込んだ。まるで火を吐く竜のように。
「火喰い竜……頭は燃えているレーズンで、巣はクリスマスの贈り物に作る……鏡の国のアリスだわ」
「ご明察だ。食べてみろ。火が消えるぞ」

 促されて腐川はこわごわレーズンを摘んで口に運んだ。口に入れてしまえば熱くなく、洋酒のふんわりした風味が口に広がった。十神が腐川に供する、これが最後のメニューだと思うと腐川は目に涙が溢れてきた。部屋が暗いのが救いだった。
(この火が消えたら、楽しかった時間もおしまいになってしまう)
 腐川は黙ってレーズンを口にいれた。炎はだんだんと小さくなり、辺りは暗闇に包まれた。
「明かりを」
 そう言って席を立った腐川の手を大きな手が掴んだ。何が起こったのか解らないまま、腐川はその腕に抱きすくめられ、唇をもう一つの唇がしっとりと押し包んだ。
 それは長い長い時間に思われた。時が止まったとさえ思われた。腐川は呼吸することも忘れ、体中の力が抜けて只腐川を支える腕に全てを預けるしかなかった。
 こぼれそうだった涙が、遠慮なく止めどなく溢れだしてくる。頬を伝い相手の頬に伝わった時、やっと相手は唇を離して
「泣いているのか、腐川」
と問うた。同時に体を支えきれなくなった腐川はその場にヘたり込み、声を上げて泣き始めた。
「どっ……どうしてっ……こっこんなこと、なさるんですかぁ!もうおしまいにするって……もうダメなのにっ」

 床の上で泣きじゃくる腐川に、上から声が降ってきた。それはまるで天の声のように。
「この小説を書く間の契約は満了だ。監禁生活も、これで終わりにする。俺も監禁終了には賛成だ。これ以上続けてはまた危うい事態を招く。」
 尤もな理屈である。同じ調子で声は続く。
「だがこれはいわば試用期間だ。次は、生涯俺の専属小説家になってもらう。」
「あ、あああ?びゃくやさま、今何て」
 腐川は泣きながら聞き返した。
「ああ、心配するな。人気作家の腐川冬子ともなれば対外的に色々あるだろう。他の出版社で書くのは許可する。」
 傲慢にも程がある。十神はこの状況を楽しんでいる。
「但し、常にこの十神白夜を最優先に扱え。良いな?」
 いたずらっぽい声での最後通告に、腐川は諦めにも似た境地になった。この人はこういう人間なのだと。
「返事は?」
「……はいっ……」
 腐川はやっと返事をした。

 とんでもないクリスマスプレゼントを貰ってしまったものだ、と嘆きながら。

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ダンガンロンパ二次創作をかいています。主に十腐(ジェノ)固定。拍手コメントの返信は、ブログ『ぺね屋絶望ホテル』からいたします。

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