腐川軟禁-待降節を過ごす密やかな25の話-
クリスマスまでの毎日を少し退廃的に過ごす十神と腐川の二十五日間。 ショートストーリーを一日一本公開予定です。
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初恋
腐川は読む十神の傍に立ち、表情を眺めているだけで満たされる。あまり感情を表に出さない十神の、微かな表情の振れ幅に自分の与えたものが作用している。その歓びを噛みしめる。
「何故お前は物書きになったんだ?」
一連の文章を読み終わって顔を上げた十神は、軽い気持ちで腐川に質問した。
「え?私、ですか。どうしてそんなことをお尋ねに……」
「質問を質問で返すな。……といいたい所だが、特別に答えてやろう。表現力、構成力、その能力は確かに超高校級と呼ばれるに相応しい。素養は十分解る。では書き始めたきっかけは何だ?」
腐川は少し戸惑った。話して良いものかと視線が泳ぐ。何故ならそれは。
「ら、ラブレター……」
「?」
「十歳の時、初めてラブレターを……書いたんですけれど、それが……」
「ほう。」
「いつの間にか晒されて、それが担任の目に留まって……だから、先生の勧めなんです。お話を書くようになったのは。」
「腐川冬子の処女作は、恋文というわけか。で?その果報者はどうしたんだ?」
「解りません。四国に転校してからは連絡も……」
十神はそれを聞いて数秒思考を巡らせた。確か、ジェノサイダー翔の事件簿の一ページ目は、四国在住の年端も行かない少年ではなかったか。時期的にも辻褄が合ってしまう。腐川はどうやらその可能性を一切認識していない様子なので、十神はそれ以上追求するのを止めた。
「それから、空想したお話を文章にするようになりました。恋をしたら、その恋が成就するように色々と空想をして」
目の前の女はどう見ても恋多き女では無かった。しかし、数々の恋愛小説を上梓する手腕の源はやはり恋心であると言う。
「びゃ、白夜様の初恋は、どんな風だったのですか?」
腐川はあらぬ方向から十神に質問をぶつけた。十神は物書きになったきっかけを尋ねていたつもりだが、いつの間にか恋愛の話になっている。
「……ふん。くだらん。」
十神白夜は、物心ついてからずっと、十神家の後継者となるべく厳しい環境に身を置いている。そんな中で恋だの愛だの無駄なことを考えている余裕など無かった。
「でも、心に掛かる人の一人くらいは……?」
腐川は追及の手を止めない。想い人の心を占める女性の存在が気に掛かって仕方がないようだった。
「見合い話なら五万と舞い込んだが、つまらん女ばかりだ。そこで感情が動くことはない。」
「お見合い……以外ではあるのですか?」
「……お前でないことは確かだ。」
十神は答えに窮して言い放った。腐川の困ったような眉根が一瞬さらに顰められる。十神は面倒そうな顔をしながら、ぽつりぽつりと語り始めた。
「ある者が気に掛かったことがある。会ったことも無い女だが……いつか顔を見てやろうと思っていた。」
雲をつかむような十神の話に、腐川はぽかんとしている。
「会えたのですか?その方に」
「会った。だが、俺の予想していた女とは、随分違う女だった。」
「……がっかりされた?」
「ギャップが酷すぎて、それまでの予想など吹き飛んでしまったな。」
「今でもお好きなんですね……?」
「……解らん。」
自棄になったように言い捨てて、十神は原稿用紙の束を机にぱさり、と置いた。
「腐川、コーヒーだ」
「は、はいっ」
(あんなにプロファイルを重ねたのに)
十神は心の中で舌打ちをする。本当に、昔はその女のことをどんな風に想っていたのか忘れてしまった。随分と都合のいい妄想をしていた気がする。
未解決事件の殺人鬼が、まさか傍にいる女の中に潜んでいるなど、思いも寄らぬことではないか。
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