腐川軟禁-待降節を過ごす密やかな25の話-
クリスマスまでの毎日を少し退廃的に過ごす十神と腐川の二十五日間。 ショートストーリーを一日一本公開予定です。
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作家の肖像
「白夜様はミステリをお読みになったことがあるんですか?」
「一、二冊程度。」
「コールド・ハムとコールド・タン。じゃが芋を添えて。『そして誰もいなくなった』の昼食ですよね。」
腐川は小ぶりのじゃが芋をフォークでつつきながら言った。推理小説の中でも古典。クローズドサークル物の草分けである。絶海の孤島も封印された学園も、似たようなものではないかと腐川は思った。ここで事件が起きたらどうなってしまうのだろうと。そんな事は絶対に起こりえないけれども。
「午後は、どうなさいますか?」
ハムとタン、じゃが芋に、チーズとビスケットの昼食を終えて腐川は十神に指示を尋ねた。
「普通に、書いていればいい。」
「解りました。」
いつも通り執筆活動をせよと命じながら十神は、書斎にもう一つ椅子を持ち込んだ。腐川が不思議そうに眺めていると、いいからいつも通りにしていろと命令が飛んでくる。十神は一度書斎から出ていくと、大きなスケッチ帳を抱えて戻ってきた。それに、柔らかいスケッチ用の鉛筆を何本か。腐川はそれを見てさらに首をかしげる。
「白夜様、それは」
「黙っていろ。ああ、必要以上に動くな。」
腐川の問いに答えず、十神は椅子に腰かけ足を組み、そこにスケッチ帳を載せて鉛筆を走らせた。この状況下で十神のスケッチの対象物になるのはただ一つ――
「びゃ、びゃくやさまっ!?まさか、あ、あ、あたし?」
「動くなと言ったろうが。」
腐川は激しく動揺した。まさか自分が十神の絵のモデルになるなど。顔、体、長いおさげ髪、そして一つ一つの挙動が十神に見られていると思うと腐川は真っ赤になった。途端に挙動不審に拍車がかかる。ペンを走らせようにも、頭の中で物語を綴ろうにも、何も出来なくなってしまう。指先が震えていた。
「む、無理、です……白夜様……書けません。」
やっと拒否の言葉を口にして、恥ずかしさの余り机の上の原稿用紙に突っ伏してしまった。
十神は不甲斐無い腐川の様子を見て、軽く舌打ちをする。
「仕方がない。一時中断だ。」
腐川はほっとして顔を上げた。十神は書斎を出て行こうとしている。
「モタモタするな!」
ついて来いと言う意味合いだった。一時中断するのはスケッチではなく、執筆活動の方であった。
「はっはいぃ!」
腐川は慌てて立ち上がる。暴君の命令に反射的に従うことに体が慣れ始めている。
向かう先は美術室。監禁生活を始めて十神は、腐川を一日一度は外に連れ出そうとしている。腐川もやっと気が付いた。十神の監視下で生活するということは、その生活スタイルさえも不規則なサイクルは許されない。心身ともに健やかであり続けることを強要される。何て傲慢で優しい監禁なんだろう、と腐川は胸が熱くなった。
「執筆も出来ぬのであれば、ここから一時間、モデルに専念してもらう。」
十神は、著名な彫刻のレプリカが並ぶ美術室に腐川を招き入れた。モデル台の上にパイプ椅子を載せ、腐川に座れと命じる。
「ええい、動くな」
それから肩の力を抜けだの背筋を伸ばせだのいくつかの指示をして、スケッチ帳に向かった。腐川の頬は常に紅潮している。鉛筆を走らせる音が部屋に響く。十神の目と指で、体中を触られているような錯覚を覚えて腐川は軽く目眩を覚える。
「びゃ、びゃ、白夜様、どうして……」
恐る恐る話し掛けた。
「どうしてあたしなんか描こうとしているんです……」
「お前だけ書いているのを、俺が何もせずに待つのが癪だからな。」
訳の解らない理屈が返ってきた。
「ああ、眼鏡が邪魔だな。暫く外せ。」
腐川は言われた通り眼鏡を外して膝の上に乗せた。裸眼の顔を見られていると思うと恥ずかしくて目をぎゅっと瞑ってしまう。
十神からまた目を瞑るなと指示が飛んでくる。
あやつり人形のように、十神の指示に翻弄されることが腐川には心地良く内心恍惚となっていた。
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