腐川軟禁-待降節を過ごす密やかな25の話-
クリスマスまでの毎日を少し退廃的に過ごす十神と腐川の二十五日間。 ショートストーリーを一日一本公開予定です。
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ジェノサイダー再び
「呼んでいない。勘違いするな。」
いつもの書庫はいつもと違う雰囲気だった。
図書室の閲覧席でくつろいでいた十神は、書庫で大きなー人が倒れたようなー物音がしたので扉を開けてみた。そこに腐川ではなく、腐川の姿をしたもう一人の女が立っていた。
「つれないんだから、ダーリン!」
「誰が貴様のダーリンだ。慣れ慣れしく呼ぶな」
十神は相手の出方を伺った。目の前にいるのは希代の殺人鬼だ。いつ鋏を喉笛に突きつけられるとも限らない。前は機先を制されたが、今日はそうはいかない。
「あはははは!イイねイイねぇ!ダーリンのその目つきいつ見てもたまんないわ!氷の視線に射抜かれて、アタシもぉイっちゃいそおよッ!」
ジェノサイダー翔。腐川冬子の第二人格にして陽気な殺人鬼。その言動は常人には計りがたい。今も嘗めるように十神を眺めて、あけすけに勝手なことを口走っている。
「ふざけるな。一切の意味も無く一人で逝け。」
十神は密かに彼女の引き起こした連続殺人事件を追っていた。警察上層部しか知らぬ未解決事件ファイルを繰り、安楽椅子探偵の如く、その正体を暴いてやろうと考えていた。だから初めて彼女が十神の前に現れた時、不覚を取ったことが悔しくて仕方がない。その執着は、どこか恋い焦がれる気持ちにも似ていた。
「やぁだよ!だって、ずっと前から好きだったんだもん。ダーリンのこと!」
「何……だと!?」
確かにその慣れ慣れしい告白は、初対面の人間に向けられたものではない。しかし、十神にはこの女に会った記憶は無かった。長年追い続けてきた殺人鬼だ。会っていたら、忘れるものかと思った。出会ったとすれば、希望ヶ峰学園の生活のうちか。
「これまでも、俺の前に現れていたというのか。」
「まぁねー。これでも時々あの根暗に代わって表に出てたってワケ。ダーリン、アタシの前の席で、ちっともこっち見てくれないから気付かなかったのねン。」
十神は平和だった希望ヶ峰学園の教室を思い出した。腐川は確かに後ろの席に居たが、その頃は全く気付いていなかった。
「アタシも正体バレると面倒だからサ、これでも大人しくしてたのよ。クラスメートは、腐川ちゃん変わってるね、なぁんて言ってたわ!ゲラゲラゲラ!」
「貴様は、記録によるとここ二年間殺人を犯していないな……それは何故だ?」
十神は、様々な質問を投げかけることで彼女との会話を長引かせようとした。少しでもこの殺人鬼の情報を掴みたかった。ジェノサイダー翔は、十神の質問を聞くと急に頬を赤らめて、恥じらいの表情で答えた。
「だって、ダーリンに会ったから。」
「……!?」
「もう殺さなくってもいいって……そう思ったのよ」
それは、等身大の恋する高校生の少女の顔だった。真偽の程は定かではない。その言葉が真実だとすると、連続殺人の抑止力になっていたのは、他ならぬ十神との邂逅だったということになる。
「成る程、貴様の殺人が止んでいたのは俺が原因か。それは光栄なことだ。」
十神は皮肉な笑みを浮かべた。
十神は、その日は腐川の小説の続きを読むことを諦めて、超高校級の殺人鬼と一日を共にすることにした。監視を建前とした、興味だったのかもしれない。いつまでこの姿で居るのか。何が触媒となって変身をするのか。
くるくると表情がよく変わる。屈託のない笑顔は腐川らしくなく新鮮だった。
十神は習慣通り、監禁対象に食事を供給するべく厨房に籠もった。当然ジェノサイダーも後をついてくる。只侍らせておくのも馬鹿馬鹿しいと思い、何気なく命じた。
「その胡椒のミルを寄越せ。」
「はァい……ふぁ、ふぁ……ふぁっくしょん!」
大きなくしゃみと共に魅惑的な殺人鬼は雲隠れした。代わりに腐川が一日ぶりに戻ってきた。
「ああ、白夜様……あたし、また……そうなんですね?」
「気に病むな。あいつは何もしていない。」
十神はようやく人格入れ替わりシステムに合点が行ったが、胸の内でひとりごちた。
(馬鹿め用意したスープ位味見していけ)
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